黒猫高原時間 003
八ヶ岳の朝は、目で見る前に耳から始まります。
まだ人の声が少ない時間。
車もそれほど走っていない。
店も開いていない。
森の近くへ行くと、聞こえてくるのは風の音と、木々が揺れる音。
そして、鳥の声です。
一羽だけではありません。
遠くから聞こえる声。
すぐ近くの木から聞こえる声。
姿は見えないのに、森のあちらこちらから声がする。
朝の八ヶ岳では、鳥を見つける前からバードウォッチングが始まっています。
鳥の名前を知らなくてもいい
バードウォッチングという言葉を聞くと、少し難しそうに感じる人もいるかもしれません。
鳥の種類をたくさん知っている。
高価な双眼鏡を持っている。
大きな望遠レンズを付けたカメラを使う。
珍しい鳥を探す。
もちろん、そういう楽しみ方もあります。
でも、50代、60代になって初めて鳥を見てみようと思った人が、最初からそこまでやる必要はありません。
鳥の名前が分からなくてもいい。
写真を撮らなくてもいい。
珍しい鳥を見つけなくてもいい。
まず朝、外へ出る。
そして、
「こんなに鳥が鳴いているんだ」
と気づくだけでもいい。
それが最初の一歩です。
50代から、耳で旅をする
若い頃の旅行は、どうしても「見るもの」が中心になりがちです。
絶景を見る。
有名な場所を見る。
写真を撮る。
次の場所へ移動する。
それも旅行の楽しさです。
でも年齢を重ねてくると、少し違う旅が面白くなってきます。
森の匂い。
朝の冷たい空気。
風。
雨音。
そして鳥の声。
写真には残りにくいものです。
SNSにも載せにくい。
でも、なぜか後になって思い出す。
50代、60代からは「見る旅」だけではなく、「聞く旅」があってもいい。
八ヶ岳の朝は、その入口になると思います。
夏の朝は、森が起きている
夏の八ヶ岳。
昼間は観光客も多くなります。
道路にも車が増えます。
店や観光施設も動き始めます。
でも早朝は違います。
まだ空気が涼しい。
草や木には朝露が残っている。
森へ近づけば、鳥の声が聞こえてくる。
昼間に同じ場所を歩くのとは、まったく違います。
森全体が、一日を始めようとしている。
そんな感じがあります。
少し早く起きただけなのに、
昼間とは別の八ヶ岳へ来たような気分になる。
それが高原の朝の面白さです。
冬の朝は、静けさそのものを聞く
冬はさらに違います。
夏のように森全体が賑やかというわけではありません。
空気は冷たい。
道が凍っていることもある。
雪が積もることもある。
そして、とても静かです。
鳥の声が聞こえない時間さえあります。
でも、その静けさの中で一度声が聞こえると、驚くほどはっきり感じる。
遠くの鳥の声。
木の枝が動く音。
自分が歩く音。
雪があれば、靴が雪を踏む音。
静けさとは、何も聞こえないことではありません。
普段は気づかなかった音が、聞こえるようになることです。
夏の朝と冬の朝。
同じ八ヶ岳でも、まったく違う時間があります。
双眼鏡を一つ持つだけで、森が変わる
鳥の声を聞いていると、今度は姿を見てみたくなります。
そこで初めて、双眼鏡が面白くなります。
最初から本格的なものを揃える必要はありません。
首から一つ下げて森を歩く。
声がしたら少し止まる。
木を見る。
枝を見る。
「あそこに何かいる」
それだけで、いつもの森の見え方が変わります。
今までなら通り過ぎていた木の上を見るようになる。
森を歩く速度も少し遅くなる。
鳥を探しているうちに、自然と周囲を見るようになる。
つまり双眼鏡は、鳥を大きく見るためだけの道具ではありません。
自分の歩く速度を落としてくれる道具でもあります。
これは50代、60代の八ヶ岳旅と、とても相性がいいと思います。
「何羽見たか」を競わなくていい
せっかくバードウォッチングをするなら、珍しい鳥を見たい。
そんな気持ちも分かります。
でも、それを目的にしすぎると、また旅が忙しくなります。
今日は何種類見た。
あの鳥が見られなかった。
もっと珍しい鳥がいる場所へ行こう。
そうなると、結局また「成果を集める旅」になります。
星空も同じです。
満天の星が見えなければ失敗。
珍しい鳥が見えなければ失敗。
それでは天気や自然に振り回されてしまいます。
鳥が見つからなくても、森を歩いた。
鳥の声を聞いた。
朝の空気を吸った。
それでいい。
鳥を探すことより、鳥がいる時間の中に自分もいる。
そんなバードウォッチングがあってもいいと思います。
一人なら、立ち止まる時間も自由です
一人で歩く朝の森は気楽です。
鳥の声がしたら止まる。
気になった木があれば見る。
疲れたら戻る。
30分でもいい。
1時間でもいい。
誰かに合わせる必要がありません。
一人旅では、この「好きなところで止まれる」という自由がかなり大きい。
観光地を回る旅では、どうしても移動が中心になります。
でも朝の森なら、
立ち止まること自体が旅になります。
50代、60代の一人旅だからこそ楽しめる時間です。
二人なら、同じ鳥を探す
二人なら、また違います。
夫婦でも友人でもいい。
「あそこにいる」
「どこ?」
「あの枝の上」
そんな会話が生まれます。
同じ方向を見る。
一つの双眼鏡を交代で使う。
鳥を見失って笑う。
鳥の名前なんて分からなくてもいい。
二人で同じものを探している時間が面白い。
有名観光地へ行って写真を撮るのとは、少し違う思い出になります。
何を見たかより、誰と一緒に見ていたか。
年齢を重ねた二人旅では、そんな記憶の残り方もあると思います。
バードウォッチングと森林浴は、よく似ている
鳥を探して森へ入る。
ゆっくり歩く。
時々立ち止まる。
深く息をする。
風を見る。
木を見る。
鳥の声を聞く。
考えてみれば、これは森林浴にもよく似ています。
「バードウォッチングをしよう」
と構えなくてもいいのかもしれません。
森を歩いていたら鳥の声が聞こえた。
鳥を探していたら、いつの間にか森の中でゆっくりしていた。
このくらいの境界がちょうどいい。
Stargazing Guideでは、鳥、森、朝、霧、湖、星空を別々の観光ジャンルとして切り離すのではなく、
一つの八ヶ岳時間としてつなげてみたいと思っています。
霧の朝にも、鳥はいる
朝起きたら霧。
普通の観光旅行なら、少し残念に感じるかもしれません。
景色が見えない。
山も見えない。
写真も撮りにくい。
でも森へ行くなら、霧の日は面白い。
遠くが見えなくなる。
木々がぼんやり浮かぶ。
湿った森の匂いが強くなる。
そして、姿が見えないところから鳥の声がする。
晴天の日とは、まったく違う森になります。
霧で景色が消えると、音が主役になる。
これも八ヶ岳の朝です。
雨なら、無理に歩かなくてもいい
もちろん雨の日もあります。
強い雨なら、無理に森へ入る必要はありません。
宿の窓を少し開ける。
軒下に出る。
珈琲を飲む。
雨音の向こうから鳥の声が聞こえるかもしれません。
旅先だからといって、必ず予定を実行する必要はない。
自然を見る旅だからこそ、天気に合わせて予定を変える。
晴れなら歩く。
霧ならゆっくりする。
雨なら屋根の下から森を見る。
自然に自分を合わせる。
それも大人の高原旅だと思います。
朝の最後に、温かい珈琲を
朝の森を歩いたあと。
宿へ戻る。
あるいは店へ向かう。
そこで飲む温かい珈琲。
これはかなりいい時間です。
少し冷えた身体。
まだ完全には目覚めていない朝。
鳥の声を聞いたあと。
温かいカップを持つ。
豪華な体験ではありません。
でも、こういう小さな時間の組み合わせが旅を作ります。
鳥を見るためだけの朝ではなく、朝そのものを楽しむ。
その中にバードウォッチングがある。
そんな順番です。
星空の翌朝に、鳥を見る
前日の夜に星を見る。
宿へ戻る。
眠る。
そして翌朝。
今度は鳥の声で一日が始まる。
夜は空を見上げる。
朝は森を見る。
星空とバードウォッチングは、一見まったく別の趣味に見えます。
でも八ヶ岳で一泊すると、同じ旅の中に入ります。
夜の星と、朝の鳥。
この二つを一晩で楽しめる。
だからStargazing Guideでは、星だけを案内するつもりはありません。
星を見るために八ヶ岳へ来た人に、
「翌朝も少し外へ出てみませんか」
と伝えたい。
そこまでが、一晩の八ヶ岳です。
朝の八ヶ岳は、鳥の声から始まる。
次に八ヶ岳へ泊まるとき。
朝食まで眠っているのもいい。
でも一度だけ、少し早く起きてみてください。
高価なカメラはいりません。
鳥の図鑑もなくていい。
最初は双眼鏡さえなくても構いません。
外へ出る。
少し歩く。
そして耳を澄ます。
鳥の名前が分からなくても、
「あっちから聞こえる」
と気づけば十分です。
気に入ったら、次は小さな双眼鏡を持ってくればいい。
そこから新しい趣味になるかもしれません。
50代、60代になってから始めるバードウォッチング。
悪くないと思います。
鳥を何羽見たかではなく、鳥のいる朝をどれだけ楽しめたか。
朝6時。
まだ人の少ない八ヶ岳で、耳を澄ませてみる。
昨日まで知らなかった高原の朝が始まります。
何もない時間を、八ヶ岳へ。
星空案内室
Stargazing Guide

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